生活におけるモデュール

今回のテーマは「生活における寸法とモデュール」です。

建築や内装には寸法(Dimension)という用語に関連して、大きさ(Size)、尺度(Scale)といった用語があり同じような使い方をしますが、ややニュアンスの違う用語にモデュールがあります。どちらかと言えば機械やPCの用語で聞くことが多いかもしれませんが、モデュールとは建築用語のひとつであり、様々な寸法の部材を組み合わせて一つのモノを形にするために、ある寸法の倍数によって全ての部材の寸法を決定する時に基準となる「ある寸法」のことも意味します。


【私たちの生活におけるモデュール】

1. 人間の体から導き出されるモデュール

日本においてよく聞くモデュールは「尺」と呼ばれる単位です。「尺」は「メートル」が輸入される以前の日本で使用されていた単位であり、建築では今も慣習的に使用される単位の一つです。一尺は約303mm、人が手のひらを広げた時の親指から人差し指の先までの長さの約二倍といわれ、人体寸法に基づく単位となります。

分かりやすいのが畳です。地域差はあるものの、一畳の長辺が1間(6尺=1820mm)、短辺が半間(3尺=910mm)というのが一般的です。畳二畳分を「坪」と表記しますが、一坪は約1.8m×1.8m、人が手足を伸ばしてゆったり寝られるくらいの人間的なサイズとも言われています。ちなみにヤード・ポンド法のフィート(feet)という長さの単位は30.48cmとなり、これも人の歩幅に由来しています。

2. ル・コルビュジェの「モデュロール」

建築に携わる人なら一度は聞いたことがある言葉、もしくは見たことがある図ではないでしょうか。「モデュロール」とは、ル・コルビュジエが人体寸法と黄金比から導いた寸法体系のことで、フランス語の「module(モジュール:寸法)」と「Section d’or(セクション・ドール:黄金分割)」という言葉から作ったル・コルビュジエによる造語です。人が立って片手を上げた時の指先までの高さ「226cm」を黄金比を使って各所の寸法を割り出すという方式ですね。ユニテ・ダビタシオンなどのコルビュジエの後期の作品に、このモデュロールが使われています。

モデュロールを使うと、人間が腰掛けやすい椅子の高さや快適なソファの奥行き、通りやすい廊下の幅や登りやすい階段の高さなどを求めることができ、住みやすい快適な住宅を設計することが可能になると言われています。ただ、モデュロールのベースとなる身長がル・コルビュジエ本人の183cmのため、日本人の体形やや大きめには感じてしまうことも。

とはいえ、ユニットやモデュールとしての基本的な寸法は建築全体を通して一貫性を持ち、この基本概念により設計プロセスが合理化され、調和のとれた空間が生み出されるわけですね。

(リンク)ル・コルビュジェの建築作品15選

3. 人間の尺度への適合

「人間工学」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。例えば毎日使うテーブルや椅子、ベッドから手に持っているスマホまで、この世界で我々が触れるものは全て「使いやすさ」を考えたものになっています。

説明では「人間が可能な限り自然な動きや状態で使えるよう物や環境を設計し、実際のデザインに活かす学問」とありますが、簡単に言えば「人間が使いやすく、体に負担がかからず、使用する中でミスが起きにくい」ように考えられたものです。家具や道具などの製品は、身体に合わせた形状や高さ・使いやすさを考慮することで心地よさを追求しています。これにより我々は無理なく製品を使用・操作し、疲れにくい環境で快適に過ごすことができるというわけです。

前述の「モデュロール」の特徴的な寸法は、人間の身体や動作に基づく「人間工学」が考慮されています。これにより建築内部のスペースは人間の尺度に合致し、快適で使いやすい生活環境が生み出され、かつ黄金比を用いた美しさも持ち合わせた、ル・コルビュジエの大発明といえるでしょう。


まとめ

今回焦点を当てたル・コルビュジェのモデュロールは、建築設計において新たな次元を切り開いた革新的な概念です。数学的な法則と人間中心のデザインが融合し、美学と機能性が調和した建築の基準。彼の設計手法は今なお建築界に深い影響を与え、未来の設計においても新しい視点を提供し続けることでしょう。

建築や内装は「デザインの美しさ」だけでは成り立ちません。そこに人間が入り初めて意味を持つものであり、そこには人間が感じる心地良さが求められます。

私たちが触れるもの全て、そこには意味を持った寸法や形があります。

ちょっと手を止めて、今触れているものを観察してみるのも面白いかもしれませんよ。

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